Masuk皇后静寧。
小燕。 燕珠の娘。 白啓の血を引き、白啓を父と呼ばなかった人。 沈氏の娘として育てられ、皇后になった人。 瑠華妃様への還子茶記録に確認印を押した人。 後にその罪を知り、瑠華妃様の名を戻そうとした人。 白家を壊す帳を作った人。 女を守るために、女を使った人。 明霞姉様を使い、白瑛を使い、私を証人にした人。 そして、皇帝陛下が愛した妻。 白啓の紙は、また嫌な場所を正確に刺してきた。『皇后をもう一度裁きなさい。 あなたが愛した姉の次は、陛下が愛した妻を。』 私は、その紙を見つめたまま、長く黙っていた。 朝の光は薄い。 医療房の窓から入る光が、紙の端を白くする。 白啓の字は細白啓は、待っていた。 まるで、こちらが来る時間まで帳に書いていたかのような顔で。 寝台に横たわっているが、目ははっきりしている。 老医官様の薬が効いたのだろう。 死なせてもらえない老人。 その顔には、疲労と苛立ちと、まだ消えない興味があった。「鈴花」 白啓は言った。「今度は何を持ってきましたか」「私の記録です」 白啓の目が、わずかに動いた。 ほんの少し。 だが、私は見た。 驚いたのだ。 白啓が。「あなたの?」「はい」「白家の帳を読む目を持つ、鈴花の記録です」 白啓は、少し笑った。「自らを裁くとは。流行りですか」「白家が嫌うので」「なるほど」 私は白瑛に合図した。 白瑛が第五記録を読み上げる。 声は静かだった。 粥を残すところで、白啓の眉が動いた。 台車を少し便利だと思い始めた者、で、白啓は本当に一瞬だけ目を細めた。 嫌がっている。 この老人は、嫌がっている。 罪だけなら扱える。 傷だけなら帳に入れられる。 だが、粥や台車や泣いたことや友人の名が混じると、白啓の帳では扱いにくいのだ。 白瑛が読み終えた。 部屋は静かだった。 白啓は、しばらく何も言わなかった。 やがて、低く笑った。「雑ですね」「はい」「長い」「はい」「使い
青の紙を読んだ時、私はすぐには怒れなかった。 怒るより先に、胸の奥が冷えた。『最後に裁くべきは、鈴花です』 白啓ではない。 皇后様でもない。 明霞姉様でもない。 私。 私自身を記録しろ、と青は書いた。 しかも、そこに並んでいた言葉は、どれも私が見たくないものだった。 白家を憎みながら、誰より白家の帳を読む目を持つこと。 許さないことで自分を守っていること。 記録する側に立ち、人を裁く快さを少し知ってしまったこと。 吐き気がした。 だが、一番嫌だったのは、反論できなかったことだ。「鈴花」 蘭々が私の顔を覗き込んだ。 膝の包帯はまだ取れていない。 けれど、彼女は当然のように私のそばにいる。「顔が、白啓を見た時より怖い」「失礼です」「ごめん。でも本当」「……でしょうね」 私は紙を畳んだ。 折り目が歪んだ。 手が震えていたからだ。「私を記録します」 そう言うと、部屋が静かになった。 景黎様が、すぐに言った。「今でなくていい」「今です」「鈴花」「青は戻ると言いました。私を記録すれば」「罠かもしれない」「はい」「なら」「だから記録します。罠なら、見えるところに出さないと」 景黎様は黙った。 反論したい顔をしていた。 だが、反論できないことも分かってい
皇后静寧。 小燕。 燕珠の娘。 白啓の血を引き、白啓を父と呼ばなかった人。 沈氏の娘として育てられ、皇后になった人。 瑠華妃様への還子茶記録に確認印を押した人。 後にその罪を知り、瑠華妃様の名を戻そうとした人。 白家を壊す帳を作った人。 女を守るために、女を使った人。 明霞姉様を使い、白瑛を使い、私を証人にした人。 そして、皇帝陛下が愛した妻。 白啓の紙は、また嫌な場所を正確に刺してきた。『皇后をもう一度裁きなさい。 あなたが愛した姉の次は、陛下が愛した妻を。』 私は、その紙を見つめたまま、長く黙っていた。 朝の光は薄い。 医療房の窓から入る光が、紙の端を白くする。 白啓の字は細く、冷たい。 弱っているはずなのに、字だけは衰えていない。 嫌になる。 人の傷を突く力だけは、あの老人からなかなか抜けない。「鈴花」 蘭々が、そっと声をかけてきた。「顔、怖い」「白啓の字を見ていますから」「分かる。字だけで腹立つもんね」「はい」「でも、内容も……その、嫌だね」「はい」 私は紙を畳んだ。 折り目をつける手が少し震えた。 皇后様を裁く。 それは、すでに何度もしてきたようで、まだしていなかった。 皇后様は死者だった。 被害者だった。 毒殺された人だった。 でも同時に、筋書きを書いた人だった。
老医官様は、逃げなかった。 逃げるような人ではない。 それは分かっていた。 分かっていたけれど、だからこそ胸が痛かった。 医療房の中央に、白木の机が置かれた。 いつもは薬草を広げる机だ。 苦い薬湯を調合し、傷を洗う布を畳み、熱を測るための水盆を置く机。 そこに今日は、証拠が並んだ。 薬箱。 薬包。 名捨て香が混じっていた包み。 使われた可能性のある空の包み。 香抜き湯の記録。 誰が、いつ、誰に、どの薬湯を渡したか。 医療房の帳。 そして、老医官様の手。 老医官様は、自分から手を机の上に置いた。 皺のある手だった。 薬草で染まった指。 何度も人の脈を取ってきた指。 血を止め、毒を見分け、傷を縫い、子供たちの熱を測ってきた手。 その手が、今日は疑われるために置かれている。「記録を始めてください」 老医官様が言った。 声はいつも通りだった。 静かで、怖い。 けれど、私は気づいた。 指先が、ほんの少し震えている。 老医官様も、人間だ。 当たり前なのに、私は今さらそれを思った。「老医官様」 蘭々が、長椅子から身を乗り出した。 膝の包帯がずれかけ、すぐ薬童に直される。「そんな、犯人みたいにしなくても」「蘭々」 老医官様は彼女を見た。「白家の罠は、信じている人を調べない時に開きます」「でも」
明霞姉様の簪から出てきた紙は、薄かった。 薄いのに重かった。 銀蓮の花弁の奥に、ずっと隠されていた言葉。『私を許さないまま、私の名を使ってください。 還名裁議の最初の証人に、私を置きなさい。 皇后様より先に。 白家より先に。 あなたを愛して使った私を、最初に裁きなさい。』 私はその紙を、何度も読んだ。 何度読んでも、最後の一行で胸が詰まる。 あなたを愛して使った私。 明霞姉様は、いつもそうだった。 優しい言葉の裏に刃を隠す人だった。 私に粥を食べさせながら、私を証人へ育てた人だった。 頭を撫でながら、逃げ道を計算していた人だった。 助けた。 使った。 愛した。 利用した。 全部同じ手でやった。 だから嫌いになれない。 だから許せない。「鈴花」 蘭々が、私の顔を覗き込んだ。 膝に包帯を巻いたまま、長椅子から半分身を乗り出している。「息してる?」「しています」「ちょっと止まってた」「止まっていません」「嘘。鈴花、嫌なもの読む時、息浅くなる」「よく見ていますね」「友達だから」 蘭々は当然のように言った。 その当然が、今は痛いほどありがたい。 白家は信頼を罠にした。 だから、誰かを信じるたびに少し怖くなる。 それでも蘭々は、友達だから、と言う。 疑われても、また戻ると約束した人の声だった。
青羅への返事は、すぐには書けなかった。 筆を持った梨花の手が止まる。 白瑛も、墨を磨る手を止めている。 蘭々は飴の袋を握ったまま、何度も口を開きかけて、結局閉じた。 月琴は包帯を巻いた指を膝に置き、苛立ったように爪先を揺らしている。 黒豆は、寝台の上でまだ眠っていた。 時々、小さく「炭じゃない」と寝言を言う。 そのたびに蘭々が「そうだよ」と返す。 寝ている子供に返事をする蘭々は、たぶん白家が一番嫌う種類の人間だ。 私は青羅の紙を膝の上に置いた。『白家の子は、何になればいいのですか。 罪人ですか。 被害者ですか。 証人ですか。 子供ですか。 人間ですか。 どれか一つにしてください。』 どれか一つ。 白家らしい言葉だ。 役目を一つにする。 名を一つにする。 迷いを削る。 痛みも、好きも、怖さも、全部削って、動きやすい形にする。 帳守。 香係。 炭。 鍵。 目。 耳。 手。 人間ではなく、役目にする。「一つにしたら」 蘭々がぽつりと言った。「楽なのかな」 誰も笑わなかった。 それは、軽い言葉ではなかった。 蘭々は自分の膝を見ている。 炭庫で打った膝。 包帯が巻かれている。「私、洗衣局代表って言われると、ちょっと楽な時あるんだよね。ただの蘭々だと怖







